心を全部奪って
「なるほどねぇ」
裕樹アニキが、顎に手を当てながら呟いた。
「それは確かに、その男のところへ戻ってもおかしくないよな」
「だろ?
もうどうにもならないだろ?
マジまいったよ…」
そのうち俺、朝倉がアイツと結婚する姿を見ないといけないのかな。
名字が変わって、“工藤さん”って呼ばないといけない日が来るのかな…。
あぁ。
そんなの地獄なんですけど。
「なぁ、拓海」
「ん?」
「その彼女が見たっていう離婚届ってさ。
ちゃんと奥さんのサインもあったのか?」
「え…?
さぁ、どうかな?
そこまでは聞いてないよ。
相手の男がそれを準備していて、それを見せられたみたいだけど」
俺の言葉に、義兄さんが何かを考えるような素振りをした。