心を全部奪って
俺の目の前に立つ工藤課長。


渋みのある色合いの上質なスーツが、やけに似合っている。


こうして後ろに立っていると、俺よりも身長が高くて。


多分、裕樹アニキくらいはあると思われた。


カバンを持つ手に、ふと目がいく。


その長い指で、何度朝倉に触れたんだろう。


その唇で、何度アイツにキスをした?


その腕で、何度朝倉を抱きしめて。


何度…。


やべ。


殴りそう。


そんな思いを振り払うように、頭をブルブルと振った。


それでもやっぱムカつく。


同じ空間に、コイツがいること。


涼しい顔しやがって。


全部、知ってるんだからな!


工藤課長の背中をキッと睨んでいたその時。


「霧島君」


突然、名前を呼ばれた。

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