心を全部奪って
厳しさの中に



「ごちそうさまでした」


「良いお味だったわね。

ね、あなた」


「あぁ、そうだね」


美しい庭が見えるお座敷の個室。


父と母、私の三人で会席料理をいただいた。


前もって還暦の御祝いだと伝えてあったからか。


お店の方が、赤いちゃんちゃんこと大黒頭巾と祝扇を貸してくださった。


最初は恥ずかしがっていた父だけど、店員さん達がうまく盛り上げてくださって、写真撮影にも応じてくれた。


ささやかだったけど、こうして還暦のお祝いが出来て良かった。


長い教員生活。


きっと色々なことがあっただろうに、愚痴一つこぼさなかった父だから。


それに対しては、


心からお疲れ様と言いたい。

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