心を全部奪って
タクシーで家に戻り、リビングでくつろいでいると、母がお茶を運んで来てくれた。


「私、お風呂の準備をしてきますね」


そう言って母は、部屋を出て行った。


父と二人きり。


テレビがついているから、静かではないけど。


会話がなくて、なんとなく落ち着かない。


そんな空気を誤魔化すように、ズズッとお茶を口にした。


「ひまり」


それまでテレビをじっと観ていた父が、突然口を開いた。


その声に、ドキッと心臓が跳ねてしまう。


「東京にはいつ戻るんだ?」


実家に帰って一週間。


有給をとって来たと嘘をついたけど。


あまりに長い休暇に、さすがの父もおかしいと思ったのかもしれない。

< 240 / 370 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop