心を全部奪って
ひまりが自主退職したと聞いたのは、その翌日のことだった。


彼女には、本当に申し訳ないことをしたと思った。


いつも一生懸命仕事をしていることを、誰よりも知っていたはずなのに。


彼女一人を、退職に追い込んでしまった。


彼女が全ての罪を被ってくれたお陰で、俺は何事もなかったように会社に来ていたけれど。


俺を見る皆の目が変わりつつあるのを、肌で感じていた。


もう、腹を決めようと思った。


たとえ降格になろうとも、減給されようとも、左遷されることになっても。


それを甘んじて受ける覚悟は出来ていた。


妻にも、今後どうなるかわからないと言った。


そうしたら彼女は、お腹の子とあなたさえいてくれたら、私は生きていけると言った。


母親になる覚悟が出来た女性は強いなと。


そう感じずにはいられなかったよ…。

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