心を全部奪って
朝倉の部屋のドアの前に立つ。


なんだか胸がドキドキする。


車で出かけた時に数回このアパートに来たけど、部屋に上がったことは一度もない。


工藤課長の後を付けたあの日、まさか朝倉がこの部屋から顔を出すなんて思いもしなかった。


朝倉の住んでいる家がわかって嬉しいはずなのに、それと同時に地獄の底に突き落とされた気分だった。


きっと、この部屋に何度も入ったであろう工藤課長。


それを思うと胸が苦しいけど、今はそんなことを言ってる場合じゃない。


もし、もういなかったらどうしよう。


もし、もう二度と会えなかったら…?


そんなの…、絶対イヤだ!


額の汗を手の甲でそっと拭う。


俺は一度大きく息を吐くと、震える指でピンポーンとインターホンを鳴らした。

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