心を全部奪って
誰だろう?


引越しの業者さんが戻って来たのかな?


濡れた頬を慌てて拭って、玄関へと向かう。


ガチャンと扉を開けた直後、


思いがけない人物の登場に


自分の目を疑った。


「霧島君?」


額に汗を流し、息の上がった彼。


「朝倉。今ちょっといい?」


気のせいか、少し震えた声。


コクリ頷くと霧島君は中の様子を見ながら、玄関へと足を踏み入れた。


「何も、ないんだな」


荷物を全て運び出したワンルームに、霧島君の声が響いた。


「朝倉、引越しするんだ…?」


霧島君の瞳はウルウルとしていて、私はその瞳を見つめながらゆっくりと頷いた。

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