心を全部奪って
「そこにある荷物は…?」


そう言って霧島君が、玄関に置いてある私の茶色いトランクを指差した。


「あぁ、引越しの荷物が届くのが数日先だから。

数日分の着替えなんかが入ってるの」


私の言葉に、霧島君がぱっと目を見開いた。


「な、なぁ。

ってことはさ。

無理に今日実家に帰らなくてもいいってこと?」


「え…?」


どういうこと?


「別に数日東京に残っても、問題ないってことだよね?」


「そ、それはそうだけど…。

一応、親には今日戻るって言ってあるから」


「それさぁ、友達のところに泊まるとか言って、なんとか引き伸ばせないか?」


「えっ、でも…」


「朝倉」


「な、に…?」


真っ直ぐ見つめられて、胸がドキドキする。


どうしよう。


恥ずかしくて、目を合わせられないよ。

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