心を全部奪って
「どうしたの?」


霧島君が真剣な目で、私の手首を掴んでいる。


「片付けは後でいい」


「え…?」


そのまま手を引いて、リビングへと移動する霧島君。


真っ赤なソファーの上にちょこんと座らされた。


その隣に霧島君も座る。


じっと見つめられて、急激に頬が熱くなってしまう。


一体、何なんだろう…?


「なぁ」


「なに?」


「今食べた夕飯って、どういう意味?」


「え…?」


「メシなんかさ、近所に食うところがいくらでもあるし。

弁当屋だってあるのに。

なんでわざわざ一回分の材料を買って、俺に作ってくれたんだ?」


「そ、それは…」


どうして霧島君は、わざわざそんなことを聞くんだろう。


「お、お礼、かな。

霧島君には、本当にお世話になったから…」


せめて、何かお礼をしたかった。


料理なら、食べてしまえば何も残らないし。


感謝の気持ちを込めることが出来るから。

< 308 / 370 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop