心を全部奪って
「なぁ、朝倉…」


「ん?」


「これで、終わりにしようとしてないか?」


「え…?」


「ありがとうって俺に礼を言って、さよならしようとしてないか?」


考えていた事をあっさり当てられて、返す言葉を失った。


「やっぱり…」


はぁーっと盛大なため息をつく霧島君。


その姿を見ながら、ぎゅっと両手を握りしめた。


「俺、朝倉に礼を言われたいから、色々やって来たわけじゃねーよ。

前にも言ったけど、あんたが好きだから、あんたをアイツから奪いたかったから。

だから必死になってたんだ」


あークソッ!


そう言って霧島君がワシャワシャと右手で髪を掻き毟った。


「なぁ…。

まだ工藤課長に未練があるのか?」


「そんなの、もうとっくにないよ…」


もう今は、あの時別れれば良かったっていう後悔しかない。


「今、フリーだよな?

誰と付き合ったっていいんだよな?

それなのに、俺をその対象にはしてくれないのか…?」


私を真っ直ぐに見つめる霧島君の瞳は、濡れたようにキラキラとしていた。


< 311 / 370 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop