心を全部奪って
「なぁ、ひまり…」


「ん?」


いつの間にか名前で呼ばれていることに気づく。


全然違和感がないから不思議…。


「付き合うことになったのは嬉しいけど、これからひまりはどうするの…?」


「え…?」


「だって、もう住む部屋もないし、仕事だってないだろ?

やっぱり、地元に帰るのか?」


「あー…」


そうだった。


幸せいっぱいですっかり忘れていたけど、私アパートを引き払ったんだった。


「ひまりの実家ってどこ?」


「私はね、愛知なの」


「愛知~?げーっ、なにその中途半端な距離ー」


「だ、だよね…」


そんなに遠くもないけど、近くもないっていうか。


「俺…、遠距離はイヤだな…」


そんなの、私だってイヤだよ…。


「私ね、この前実家に帰った時、お父さんと和解したの」


「え?あのよく怒鳴るっていう?」


「うん…。

すごく怖くて、ハッキリ言って大嫌いだったんだけど。

全部私のためにしてくれてたことだってわかって、

すごく嬉しかったの」


本当に久しぶりに、心が通じ合えたような気がしたんだ。

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