心を全部奪って
「私の父、この夏で定年退職したの。

小学校の校長先生をしていたんだけどね。

退職後は、自宅で学習塾を始めるのよ。

それを手伝おうかと思ってるの」


「学習塾…か」


地元に帰れば家もあるし、仕事もある。


東京の暮らしは苦手だし、愛知の海が懐かしいけど。


でも…。


「じゃあ、やっぱり遠距離になるんだな…」


「う…ん」


そう、なるのかな…。


東京でまた一から就職活動をしたところで、家電も全部処分しちゃったし、もう一人暮らしのグッズが何もない。


また買い揃えるのは、かなりの負担になってしまうよね。


「なあ、ひまり。

いつまでここにいる?」


「うーん。

引越しの荷物が届く時には実家にいないと、両親に迷惑かけちゃうから。

その頃には、ね…」


なんだか寂しくて、霧島君の胸に顔を埋めた。


そうしたら霧島君が優しく頭を撫でてくれた。


「せっかく思いが通じ合えたのに、いきなり遠距離って。

まじ、泣きそうなんだけど…」


霧島君は長いため息をついた。

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