心を全部奪って
俺の腕の中で、寂しそうに遠くを見つめているひまり。


そんな彼女の濡れた髪を、何度も何度も撫でた。


俺と同じシャンプーの香りがする。


俺のシャンプーは裕樹アニキのオススメのだから、結構いいやつなんだ。


爽やかで、かつ甘い香り。


それにしても…。


今さらながら、メールを一斉送信した日高の存在が憎らしい。


アイツがあんなことさえしなければ、ひまりは会社を辞めずに済んだのに…。


せっかく両思いになったのに、いきなり引き裂かれるようでつらい。


毎日だって会いたいのに。


ずっと、こうやって抱きしめていたいのに…。


この部屋で同棲っていうテもなくはないけど。


あの風呂といい、俺の部屋はあまりに狭過ぎる。


東京で就職活動するっていうなら、いくらでも応援するけど。


実際かなり大変だってことは、俺もよくわかっている。


俺にもっと経済力があったらいいのに。


そうしたら、すぐにでもひまりを養ってやれるのに。


あんなに営業を頑張っても、せいぜいボーナスの査定がちょっといいくらいなもので。


なんか情けない。


所詮俺なんて、工藤課長に敵わないのかなあ…。

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