心を全部奪って
プロポーズにも似た霧島君の言葉に、私は熱に浮かされたようになっていた。


霧島君と一緒にいられるなら、部屋の広さなんて全然気にしない。


でも、東京に残るなら…。


「それなら、私も仕事を探さなきゃ…」


霧島君のお荷物になるのだけは、絶対にいやだもの。


「無理しなくていいよ。

大丈夫。

なんとかやっていけるって」


「そんなっ。無理なんかじゃ…」


一緒に暮らすなら、私も働くのは当然のことなのに…。


「だってさ…」


そう言って霧島君がきゅっと目を細める。


「怖いんじゃないのか?

また、会社勤めをするのは」


ドクンと心臓が重く音を立てた。


自主退職を言い渡した人事部長の顔が思い浮かんで、思わずぎゅっと目を閉じた。


あぁ…。


霧島君には、何もかもお見通しなんだね。


それだけ、私をよく見てくれているってことなんだ。


なんだか胸がいっぱいになる。


「OLじゃなくったって、きっと何かあるよ。

私にも出来る仕事が。

選り好みしなければ、きっとすぐに見つかると思うよ」


私の言葉を聞きながら、なぜか霧島君は複雑そうな顔をしていた。

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