心を全部奪って
霧島君の言う通りだ。


一旦塾の仕事が始まったら、きっと東京には戻れない。


受験する子達もいるだろうから、そんな子達をほうっておくことなんか出来ない。


子供は大好きだし、もし生徒達が慕ってくれたりしたら、それこそ絶対辞められない。


「仕事のことやご両親のことは、これからじっくり考えよう。

大丈夫。俺が絶対なんとかしてやるから」


霧島君は真剣な瞳で力強く言った。


霧島君がそう言うと、本当に大丈夫って思えるから不思議。


「だから…、ここに残って?」


霧島君の熱い思いに、なんだか涙が出そうになる。


「ね?」


上目遣いでそう言われて、思わずはいと返事をした。


「よかった…」


ホッとしたように言った後、また私をぎゅっと抱きしめる霧島君。


大丈夫。


きっと、大丈夫。


彼の温かい腕の中で、私は自分に何度もそう言い聞かせていた。

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