心を全部奪って
その日の夜。


私と霧島君は、居酒屋ナオトに足を運んでいた。


「なるほどねぇ」


カウンターの向こうにいるナオトさんが、慣れた手つきでお酒を作りながら言った。


霧島君は私達が付き合うことになった報告と、私をどうにか東京に残したいから、何か良い方法がないか知恵を貸して欲しいとナオトさんに話した。


「まぁ俺からしたらさ、もうひまりちゃんの実家に行って、結婚させてくださいってお願いすればいいだけの話だと思うんだけどな」


け、結婚……?


その言葉に、なぜか汗が噴き出してしまう私。


「いやー俺はそうしてもいいんたけど、知り合ってからまだ5ヶ月も経ってないし、付き合う事になったの昨日だからなあ」


「あー、それは確かに気が早いって言われそうだよな」


「だろ?

だからまずは、ひまりの仕事を探さなきゃならないんだ。

こっちで仕事が見つかったって言えば、帰れない理由にはなるだろ?」


「ふぅん…。せっかく付き合えることになったのに、いきなりの試練で大変だなあ」


そう言って、ナオトさんはチューハイをコトンと私達の前に置いてくれた。

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