心を全部奪って
「揚げ出し豆腐、お願いしまーす」


フロアからアルバイトの女の子の声がして、ナオトさんは調理に取り掛かった。


「ご、ごめんね、霧島君」


「は?何が?」


「だって…。

なんか私って、何の取り得もないよね。

趣味もないし、得意なこともないし。

こんな私、きっとどこも欲しがってくれないよね……」


なんか情けなくて、泣きたくなっちゃう。


「こら、ひまりー。

“こんな私”って言ったなー?」


霧島君がチョンと私のおでこに人差し指を置いた。


「ひまりが言ってることはさ、俺の選んだ女は低レベルだって言ってるのと同じことじゃないか。

俺は最高の女と付き合ってるんだから、そんなこと言うな!

次言ったら、身体中にキスマークつけるよ?」


「ちょっ」


周りに人が大勢いるんだから、そういうことを言わないで欲しいな。


朝付けられたキスマークは、ストールを巻いて誤魔化してるけど。


身体中につけられたら、隠しようがないじゃないか。


もう言わないようにしよう……。

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