心を全部奪って
「ひまり」


「ん?」


「ごめんな。部屋がタバコの臭いでいっぱいになって」


「ううん。

そんなの全然構わない」


工藤さんの吸うタバコならイヤじゃない。


むしろ、残して欲しい。


あなたがこの部屋にいたっていう証だから。


「家じゃ俺、部屋で吸わせてもらえないから」


そう呟いて苦笑いする彼。


奥さんがタバコを嫌がるから、彼はいつもベランダで吸っていて。


その時間に、こっそり私のスマホにメッセージを送ってくれたりする。


そんな時は私もベランダに出て、同じ空を見ている工藤さんを想う。


私達だけの、秘密の時間だ。

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