心を全部奪って
霧島さんが足を止めたのは、真っ白いドアの前。


おそらくここが、今から商談をする会社なんだろうけど。


何の躊躇もなく扉を開ける霧島さん。


彼は目の前にあるカウンターの呼び鈴をチンと鳴らした。


パーティションの向こうから、パタパタと誰かが早足で歩いて来る音がする。


中から出て来たのは、40代かなと思われるスーツを着た男性だった。


「やぁ、霧島君。待ってたよ」


「佐藤部長、すみません。遅くなりまして」


「いや、全然大丈夫だよ。

打合せ18時15分からだったでしょ?」


な、なぬ?


18時15分?


私、充分間に合ってるじゃない。


さっき遅いって怒ったの、あやまってよーーー!


「あれ?こちらの方は?」


不思議そうに私を見る佐藤さんというその男性。


「あぁ。彼女は僕のアシスタントの朝倉です」


そう霧島さんに紹介されたから、思わず背筋がピンと伸びた。


「あ、朝倉と申します。

よろしくお願い致します」


とりあえず自己紹介をして、ペコリと頭を下げた。

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