心を全部奪って
「それでは、今後ともどうぞよろしくお願いします。

発注は朝倉宛にFAXでお願いします」


「うん。そうさせてもらうよ。

よろしくね。朝倉さん」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


電話ではよくやりとりをしても、実際にお客様とは会うことがない営業アシスタント。


こうして顔を合わせていれば、なんだか親近感が湧くし、仕事がしやすいよね。


佐藤部長にお礼を言って、私達は事務所を後にした。


ふと腕時計を見てみると、20時をとうに過ぎていた。


あーあ。


今から帰っても、もう工藤さんには会えないよね。


しょぼんとしていたら、霧島さんが突然私の手を取った。


「な、なに?」


「ちょっと付いて来い」


私の手を引いたまま、急ぎ足で通路を歩く霧島さん。


エレベーターに乗り込むと、彼は最上階のボタンを押した。


「ど、どこに行くの?」


「いいから、黙って付いて来ればいい」


もうっ。


この人っていつも突然だし、強引だよね。

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