心を全部奪って
揺さぶってえぐって傷つけて
「ほら」
ぶっきらぼうに手渡されるマグカップ。
漂う香りだけで、前回出してくれたお茶と同じだとわかった。
布張りの柔らかいソファーに、私と霧島さんは隣同士に座っている。
「ちょっと、聞いてもいい?」
「あー?」
「さっき、お店でナオトさんに聞いたんだけど。
霧島さんって、お酒強くないんだよね?」
チラリと横目で、霧島さんを見てみる。
すると彼は、いたって冷静な顔でお茶を口にしていた。
「あぁ、そうだけど?」
さも当たり前のように言う霧島さん。
「でも、霧島さん。
前にこの部屋で言ったよね?
“俺が、あの程度の酒で酔うかよ”って…。
あれは、嘘だったってことだよね?
どうして嘘をついたの…?」
あんなことを言うから、てっきり演技だと思ってた。
ここへ連れ込むための、手の込んだお芝居だったんだと…。
でも、違ってた。
どうして…?