理想の結婚
第6話

「一輝君!?」
「理紗姉ちゃんから離れろ! 次、触ったら殺す」
 突然現れたちびっ子剣士に理紗も男達もきょとんとする。しかし、状況を飲み込むと笑い始める。
「何かと思ったらガキかよ。驚かせやがって。危ないからそれ振り回すなよ」
「一輝君! 危ないから逃げて!」
 理紗の声を受けるが一輝は微動だにせず構えたまま口を開く。
「理紗姉ちゃんは僕が守る!」
「か、一輝君……」
 二人のやり取りを見ていた男は鉄パイプに警戒しつつ一輝との距離を詰める。倒れていた男も立ち上がり、脇腹をおさえながら挟み打ちにしていく。
(危険だわ。いくら剣道ができてもまだ小さいし挟み打ちにされたらひとたまりもない)
 危惧した刹那、予想通り二人同時に動き、一輝はすぐに捕まってしまう。
「このガキ、さっきはよくも」
 腹を突かれ倒れた男は怒りながら一輝を地面に投げつける。受身の取れない一輝はその衝撃で苦しみもがく。
「一輝君!」
 駆け寄ろうとした理紗の腕をもう一人の男が掴み止める。
「理紗姉ちゃんは俺達といいことしような」
「放して!」
「オイ、ガキはほっといて彼女と遊ぼうぜ」
「いいや、このガキにしっかり復讐しないと気がすまない」
 そういうと男は落ちていた鉄パイプを拾い、容赦なく叩き始める。
(か、一輝君、このままじゃ一輝君が死んじゃう!)
「やめてー! 誰か来て! 助けてー!」
 大声を出す理沙を見て二人は顔を見合わせ走って逃げる。倒れる一輝に駆け寄るとすぐに抱き起こす。
「一輝君! 大丈夫!? しっかりして!」
 必死に呼びかけるも既に意識はなく。頭からも血を流している。
(死んじゃう! 死んじゃうよ! どうしよう、どうしよう!)
 一輝を抱き締めたままおろおろしていると、一人の男性が理紗に駆けつける。
「もしかして、理紗ちゃん?」
「嘉也叔父さん! 大変なんです! 一輝君が! 一輝君が!」
 理紗の尋常でない様子と血まみれの一輝を見るなり、嘉也はすぐ携帯電話を取り出す。速やかに親戚全員へと連絡を取ると、直ぐにワゴンが回され警察車両の先導の元、救急病院へと搬送された。搬送中に伝えた情報から二人組みの男は直ぐに逮捕されるが、理紗の気は一向に晴れない。
 医師の話によると命に別状はないものの、しばらく入院が必要とのことで理紗は病室にて付き添うと希望した。
しかし、一輝の両親からは、ちゃんと面倒を見てくれなかったと責められ、一輝に会うことすら禁じられてしまう。様々なことが一編に起きショックを受けたまま理紗は帰宅する。奈津美もその落胆した様子に戸惑うが、声すら掛け辛いその様子にそっとしておくしかない。その日からしばらくの間、理紗はふさぎ込み家族とも話さなくなる。

 波乱の夏休みが終わり、受験勉強も本格的になってきている中、理紗だけは勉強に身が入らない。家族との会話は戻ったものの、一輝との一件がまだ尾を引いており心中はもやもやしたままだ。親友でもある麻美も心配するが効果はなく、ただ漫然と日常を送っていた。
 夏休み明け最初の日曜日、理紗を残し他の家族は買い物に出かける。事件以降、人との関りを持つ事が億劫になったのもあるが、外出すること自体怖くなっている側面もある。眠気を感じつつ自室のベッドで横になっていると、訪問客を報せるチャイムが鳴る。当然ながら居留守を使い、気配を悟られないように息を殺して帰るのを待つ。
(日曜日だし、きっと宗教かなんかの勧誘に違いない。ほっといて問題ないはず)
 しばらく鳴らされ続けたチャイムだが、諦めて帰ったのか程なく静かになる。
(やっとゆっくりできるわ)
 安心したのも束の間、今度は縁側から声が聞こえる。
「理紗姉ちゃん! いるんでしょ? 出てきてよー!」
 聞き覚えのある声に驚き窓の外を見ると一輝が手を振っている。
(一輝君!)
 姿を確認すると理紗は急いで階段を駆け降り縁側に向う。
 スリッパも履かず庭に出ると、すぐさま一輝を抱き締める。
「理紗姉ちゃん?」
「一輝君、ごめんなさい。私のせいで大変な目に遭って。本当に本当にごめんなさい! 大丈夫だった? 傷はもう治った?」
 突然抱きしめられた上に真剣に謝られ、質問攻めにも合い一輝は困惑する。今は退院し後遺症もなく元気だと告げても、理紗の熱い抱擁は一向に解けない。
「私がもっとしっかりしてれば一輝君をあんな目に遭わすことはなかった。本当に謝っても謝りきれないよ」
 抱きしめたまま涙を流す理紗を感じて一輝も辛い気持ちになる。
「もういいって。だいたい、理沙姉ちゃん、何も悪くないし。僕がもっと強ければ問題なかったんだ。こっちこそちゃんと守れなくてごめん」
(一輝君……)
「そんなことない、一輝君は立派だった、カッコよかった。私の事、ちゃんと守ってくれた。本当に感謝してるよ」
「理紗姉ちゃん」
 抱きしめた状態から離れると、理紗は一輝の頬に軽くキスをする。一輝はその行為に慌てふためく。
「姫を守ったナイトには、キスのご褒美って相場が決まってるのよ」
 一輝は何も言えずに顔を赤くしている。
(真っ赤にして一輝君可愛い)
 ニコニコしながら見つめていると、一輝は突然姿勢を伸ばし気を付けのポーズになる。
「一輝君?」
「理紗姉ちゃん!」
「なに?」
「僕が大きくなったら、結婚してください!」
 まったく予想もしてなかったプロポーズに理紗は唖然としていた。

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