piano
サヤは。
黒猫から逃れるべく、後ろに下がり続けているうち、足が何かにぶつかった。
……ピアノの椅子。
ふと少年を見ると、……目が、合った。
黒猫を軽く蹴る。
『ふぎゃ』
と小さく声をあげ、猫は主人の肩へと駆け上がった。
サヤはそれを見届けると。
椅子に座って、ピアノを弾き始めた。
今までにない、明るい曲。
軽やかなメロディーが、部屋中に心地よく響く。
「あ…あぁ……」
声がした。構わず弾き続ける。
目の前でどんどん薄く、消えゆくおばあさんの姿を、少年はただ、じっと見つめていた。
猫は、いつの間にかいなくなっていた。