異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました



 そのままリズの手を引いてダイニングに向かう。リズはおとなしくオレに従いながらも、不服そうに口をとがらせた。

「ゆうべ久しぶりに食べたから、あんまりお腹すいてないのよね」

 そう言った途端、リズの腹が鳴った。オレは振り向いて勝利の笑みを浮かべる。

「腹は空腹を訴えてるみたいだけど?」
「うー……」

 上目遣いにオレを睨みながら、リズは気まずそうに腹を押さえた。

 リズを席に着かせて、彼女の前に置いたカップに熱いハーブティーを注ぐ。まだぼんやりとしたままカップから立ち上る湯気を見つめているリズを横目に、オレも斜め前の席に着いた。
 それを見て初めて気づいたのか、リズが不思議そうに尋ねる。

「あなたも食べるの?」
「うん。ひとりで食べるの寂しいだろ?」
「そうね」

 リズはにっこり微笑んでフォークを手に取った。
 充電直後のオレが食事を摂る必要はないので不思議だったのだろう。

 そっか。大叔母さんがいなくなってから、この家ではずっとひとりだったリズは、ひとりきりの味気ない食事が寂しくて、サプリですませるようになったのかもしれない。
 そう思うと、これからも時々何か作って一緒に食べたくなるなぁ。
 そんなことを考えていると、リズが一生懸命フォークを操りながらつぶやいた。

「あなた、料理したことないって言ってなかった? なんでこんなに興味持っちゃったの?」
「君の食事があまりに味気なくて心配になったんだ」
「そんなこと心配しなくても私だけじゃないし、他の人も普通に元気に暮らしてるし」

 スクランブルエッグを真剣な表情ですくいながら、リズが投げやりに言う。
 あれ? もしかして迷惑だった?

「サプリじゃない食事をわざわざ摂るのって、やっぱり面倒?」
「面倒といえば面倒だけど、自分で作るわけじゃないならたまにはいいわね」
「そっか。よかった」

 どうやら自分が作るんじゃないなら、食べることはイヤではないらしい。リズがイヤだと言うなら、今生でオレが食べる普通の食事はこれで終了だと覚悟してたから、ホッとした。


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