異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました
「でもね、以前あなたに話した絶対命令の意義って、バージュ博士の持論だったのよ」
「あぁ、人間の本能の代わりって奴?」
「そう。それに気づいたから、バージュ博士は法に背くことなく究極のヒューマノイド・ロボットを完成させることができたのよ。今のバージュモデルは、絶対命令をインプットされているけど、人間と変わらないでしょう?」
「確かに」
「それを可能にしたのが人格形成プログラムなの」
人とは違い揺らぐことのない本能を持ち、人と同じように喜怒哀楽があり、環境や経験によって変化する人格を有したロボットは、確かに究極のヒューマノイド・ロボットかもしれない。
リズは懐かしそうに目を細めて、遠くを見つめながら言う。
「昔ね、バージュ博士と一緒にロボットを作ってた時、私まだ小さかったから思い通りにできなくて、博士に八つ当たりしたことあるの。その時、自分も子供の頃大失敗をして大叔母さんにひどく叱られたことあるよって笑ってたんだけど、あれって免職になったときのことだったのかもしれないわね」
「かもな。何度か叱責されたみたいなこと書いてあったし」
「私、六歳より前の記憶がないから、本当はもっと色々バージュ博士と話したり教えてもらったりしたんだと思うんだけど、一緒に暮らした記憶は一年半くらいしかないの。私のことも何か書いてあるかな」
「まだそこまで到達してないけど、あったら保存しておくよ」
「うん、お願いね」
小首を傾げて、リズはにっこり微笑んだ。
やべぇ。ちょっとかわいいと思ってしまったじゃねーか。
努めて平静を装いながら、前から気になっていた事を尋ねてみる。
「そういえば、なんで六歳より前の記憶がないの?」
「高熱を出して生死の境をさまよったんだって。それで脳に記憶障害が起きたらしいの」
「なんと。快復してよかったな」
「そうね」
他人事のように笑って、リズは仕事に戻っていった。オレも日記データの閲覧に戻る。
何かあるとしたら、たぶんこの先のはずなのだ。