異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました


 日記も残りわずかになってようやくバージュモデルの人格形成プログラムに関する記述が現れた。
 ランシュは死亡する前日、科学技術局に赴いてなにやら挑戦状を叩きつけてきたらしい。
 ランシュの死後まもなく、科学技術局がお役所の許可証を突きつけてフェティの家にあるランシュの部屋を家捜しにやってきた。
 表向きは局の資産を個人的に所有していないか確認するためだったが、目的は人格形成プログラムだ。フェティやまだ幼いリズまで尋問を受けたという。
 結局なにも発見できずに引き上げていったらしいが。

 まぁ、普通に考えて、そんなすぐに見つかるところに隠してるはずないよな。

 お役所が許可したのはランシュの部屋だけだったので、フェティの部屋は捜索されなかったようだ。だが、フェティも元科学技術局の人間だ。いずれ自分の死後に同じ理由で部屋を捜索されるかもしれない。
 そう思ったフェティはメモリカードにロックをかけ、念のため日記の記述も所々消去したのだ。

 その辺の事情が、五年前に書かれた最後の日記に記されている。


 そろそろ私もランシュのところに行くのかな。最近、体力的にちょっと厳しい。日記も今日で終わりにしよう。
 ロボットを戦争の道具に使おうとする科学技術局に人格形成プログラムのソースコードは渡したくない。
 それがランシュの願い。
 本当は最後まで見届けたいけど、五年後まで私の命は保たないと思う。
 私がいなくなった後、なにも知らないリズひとりに重荷を背負わせてしまうのはかわいそう。
 だけど、ランシュの夢見た、人とロボットが助け合って共存する平和な世の中のためには、あの子もきっとわかってくれる。だってリズはロボットが大好きなんだし。
 ランシュと一緒に暮らすと決めた日、彼と共有した秘密は私がお墓の中まで持って行こう。万が一に備えて、日記の中からも色々消した。絶対復活できない方法で。
 ランシュの決めたキーワードは私もリズも知らないし、科学技術局の人はおろかこの国の人たち誰にもわからない。
 だからランシュ、笑って私を迎えてね。天から一緒に笑ってやりましょう。
 見届けることはできなかったけど、最後に笑うのは私たちよ。だっていつだって天は私の味方なんだから。


 九十年に及ぶフェティの長い日記は、最後まで彼女らしい強気な言葉で締めくくられていた。

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