異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました
 聞かない方がいいのかなとも思ったけど、二課長はおどけたように片目を閉じて人差し指を唇に当てる。

「私が話したことは内緒にしておいてくれよ。ただ彼が理由もなくロボットを拒絶しているわけじゃないことを、ロボットの君たちには知っておいて欲しいんだ」

 そう前置きして、二課長は話し始めた。



 班長がまだ新人で、二課長が班長だったころ、今日と同じような立てこもり事件で出動した時のことだ。
 犯人は人間の男で、人質に銃を突きつけ、別れた妻との復縁を要求した。男の暴力が原因で一方的に別れた妻は、男から逃げて身を隠していたのだ。

 新人だった班長は最前線で犯人の説得に当たっている捜査員の補佐をしていた。犯人は興奮していて、捜査員の説得には耳も貸さず、自分の要求だけを繰り返す。
 そして興奮が最高潮に達した犯人は、いきなり捜査員に向かって叫びながら発砲した。

 犯人の撃った弾は、まっすぐに班長をめがけて飛んでくる。だが班長には当たらなかった。

 野次馬の人垣の中から飛び込んできた見ず知らずのヒューマノイド・ロボットが、班長の代わりに弾を受けていたのだ。

 呆然とする班長に向かってロボットは穏やかに微笑みかけた。

「ご無事ですか?」
「あぁ……」
「よかった」

 ロボットは一層笑みを深くして、そのままその場にくず折れた。
 人を撃ったと思ったのか、犯人はすっかり動転して硬直している。そのおかげでひとりの犠牲者も出すことなく、あっさり逮捕された。人間の犠牲者は。


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