異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました
益々不愉快になって眉をひそめるオレの背中をリズが叩いた。
口だけゆっくり動かして「笑顔」と告げる。
はいはい、わかりました。
オレは白々しいほどの極上笑顔を作ってみせる。リズがクスリと笑った。
二課長からお客様ご訪問の理由をおおまかに聞いて、三人で応接室に向かう。そこへ給湯室から、ロティが四人分のお茶を運んできた。
リズがロティに手を差し出す。
「私が持って行くわ。まさか人間の女相手に警察局の中で痴漢行為は働けないでしょう?」
二課長に速攻で現行犯逮捕だよな。てか、ここは一番下っ端でリズの下僕であるオレが持って行くべきじゃないのか?
そう思ってオレが口を開きかけたとき、ロティはいつもの柔和な笑顔でゆっくりと首を左右に振った。
「リズさん、お気遣いありがとうございます。でも、これは私の仕事ですから」
ロティってホント、プロだよな。オレなんか先入観で笑顔さえ出し惜しみしてるってのに。
ロティの笑顔を見つめながら、リズは手を引いて小さく頷いた。
「そうだったわね。じゃあ、お願いするわ」
「はい」
話がまとまったところで、二課長は応接室の扉をノックして開いた。彼に続いてリズ、オレ、そしてロティが応接室に入る。
来客用のソファにはグレーのスーツを着た三十代と思われる細身の男が座っていた。
少し長めの黒髪と銀縁のメガネが、俯く男の顔を半分隠している。クランベールに来て初めてこんなに真っ黒な髪を見た。
なんとなく人種はヨーロッパっぽい感じだから、色素の濃い人はいないのかと思って以前リズに聞いたことはある。いないこともないが、少ないと言っていた。
「どうもお待たせしました」
にこにこと挨拶をする二課長をスルーして、立ち上がった男はつかつかとオレの元へやってくる。そしてうっかり黒髪に見とれてぼんやりしていたオレの右手を両手で握った。
「やぁ、君がシーナだね? 会いたかったよ」
「はぁ……」
想像もしていなかった過剰なまでにフレンドリーな展開にオレはうろたえる。