異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました
オレがおっさんロボットに追いついて捕らえるより、たとえ法に反していてもバイクを投げつけて足止めする方が確実だと人工知能は判断したのだろう。
絶対命令は法律で義務づけられているプログラムだ。勝手に改竄(かいざん)することは許されていない。
ラモット班長もそれは知っているので、言葉を飲み込んで忌々しげにリズを見下ろす。
しばらくの間、ふたりは無言で睨み合った。
なんかオレ、すげー居心地悪いんだけど。
ふと見ると、部屋の奥で二課長も声をかけそびれて苦笑している。そこへ併設された給湯室の扉を勢いよく開いて、ニコニコしながら女性が入ってきた。
「みなさん、お疲れさまでしたぁ。お茶が入りましたのでどうぞぉ」
間延びした甲高いアニメ声に、張りつめていた重苦しい空気が一気にゆるむ。
たくさんのカップを載せたトレーを持ってやってきた彼女は、特務捜査二課専属のヒューマノイド・ロボットだ。名前はロティ。オレと同じ備品仲間。
といっても、彼女はロボット捜査員ではなく、来客の応対や事務所内の雑務など庶務を担当している。
ふわふわとした長いハニーブロンドをうしろでひとつに束ねて、髪質と同じようにふわふわとおっとりした性格の彼女は、表情も豊かで、とてもロボットだとは思えない。
自分の姿を初めて見たときにも信じられなかったが、クランベールのヒューマノイド・ロボットは本当に人間そっくりなのだ。
ロティはニコニコと笑顔をたたえたままで二課長の席にカップを運ぶ。続いてラモット班長のところへやって来た。
「はい、ラモットさん。どうぞ」
「いや、オレはいい」
班長はカップを一瞥しただけでロティとは目も合わせず言下に断る。
労ってる相手に対してその態度は社会人としてどうなんだ。と思わなくもないが、相手が人間でないならこんなもんかな。と悟っているオレもいる。
理由はわからないが、班長は元々ロボット嫌いみたいだし。