異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました
ロティの配ったお茶を飲みながら雑談をしていた捜査員たちも、お茶が底を尽きるとそれぞれ帰宅していく。
夜も遅いというのに、リズはまだ作業があるというので、オレも一緒に局内にある研究室に引き上げた。
研究室の扉の前でリズは立ち止まる。扉に仕込まれた認証装置がリズを識別して扉が横にスライドした。
続いてオレも認証され扉をくぐる。
リズの耳たぶに光る銀のイヤーカフは、おしゃれアイテムではなくクランベール国民の証だ。これに住民情報が登録されていて、店での決済やセキュリティ関係など、暮らしのあらゆる場面で活用されているらしい。
オレも研究室を出る前にロボット用のものを耳に取り付けられた。主人の命令で買い物をしたりするロボットもいるから、ロボット用もあるのだ。
部屋にはいると人を関知して自動で灯りが点灯する。部屋の隅に立っていたレトロな白いロボットが、青い目玉を点滅させながら、あからさまな電子音声で話しかけてきた。
「オカエリナサイマセ。ヘヤノソウジハオワリマシタ」
「ただいま、ムートン。いつもありがとう。もう休んでいいわよ」
「カシコマリマシタ」
目玉の灯りを消して、ムートンはそのまま動かなくなった。
ムートンはドラム缶のような円柱の上に、ラグビーボールのような楕円形の頭がそのまま載っていて、頭は三百六十度回転する。胴の横には床に届きそうな細長い腕が二本ついているが、足はなく胴の底に車輪がついていた。
体のあちこちには擦り傷があって、白い塗装が掠れているところもある。見た目だけでも随分と年季の入ったロボットだ。
決められた命令通りに作業をこなし、こちらの言葉に反応を返すが、そこに感情は見えない。クランベールの科学からしてみればかなりレトロで、前世のオレがいた日本にもいそうなロボットに、リズは毎日微笑みながら声をかける。
何か特別な思い入れでもあるのかもしれない。
リズの研究室は殺風景だ。入り口横に来客用の机といすがある他には、窓際に机と一体化したコンピュータがあるだけだ。入り口から右手の壁は一面戸棚になっていて扉が全部閉まっているので壁と変わりない。
左手には認証付きの扉でフロアを仕切った作業場があり、オレが目覚めたのはこの作業場の中だった。