異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました
リズと一緒に研究室に入ると、自動で明かりが点灯した。オレが出て行ったときと寸分違わず、トロロンはソファの上で丸くなり、ムートンは定位置に佇んでいる。夜なので挨拶はなしだ。
リズは頭からかぶっていた上着をオレに返して、まっすぐ奥へ向かった。
今日中に片づけなきゃならない仕事でもあるんだろうか。
「急ぎじゃないなら明日にしたら? 体調も万全じゃないんだし」
「仕事じゃないわ」
「へ?」
てっきりコンピュータに向かうものと思っていたリズが、さらに奥へ進みムートンの前で立ち止まる。そしてオレを振り返った。
「色々ごたついてて機会を失ってたんだけど、あなたに話そうと思ってたの。あなたのおかけで思い出したから」
「思い出したって、なくしてた記憶?」
「そう」
やっぱ思い出してたんだ。でもオレのおかげって?
あの爆弾事件が原因なら、オレが壊されかけてリズが精神的に緊張を強いられたから? おかげっていうより、なんか迷惑かけただけのような気がしてならない。結局わからないので素直に尋ねることにする。
「オレ、なにかしたっけ?」
リズはクスリと笑って種明かしをした。
「人格形成プログラムのソースコードを手に入れるキーワードよ」
「あぁ、大叔母さんの日記に書いてあった……。わかったの!?」
「あなたが教えてくれたの」
「へ?」
「”ランシュの決めたキーワードは、私もリズも知らないし、科学技術局の人はおろか、この国の人たち誰にもわからない”って書かれてたでしょう? あれ、ニッポン語だったのよ。この国の人にはわからないけど、あなたはニッポン人だから」
「そういうことか」
バージュ博士の母親は日本人だったっけ。その事実を知ってるのは、ごく限られた人だから日本語を知ってる人も限られた親しい人ってことだ。
それはおそらくバージュ博士にとっては、キーワードを知られてもかまわない人たち。