異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました
「あの爆弾事件の後に思い出したの?」
「えぇ。あなたの言葉がきっかけで。あの言葉、記憶の封印を解くキーワードでもあったの。私、ランシュに魔法をかけられてたのよ」
「え、それってもしかしてドン……」
「今言わないで」
リズの指先がオレの口をふさぐ。オレは言葉を飲み込んで、話の続きに耳を傾けた。
「発熱で記憶障害を起こしたのはウソじゃないの。その時脳内に制御用チップを埋め込まれて、そのチップにランシュが無線通信で細工を施したんだと思う」
「じゃあ、リズは元々知ってたんだ」
「えぇ。消えていた記憶の最後は、ランシュのおまじないよ」
熱が引いて目覚めたリズの頭を撫でながら、バージュ博士は記憶を封じた。
「よく頑張ったね。リズがこれからも幸せに暮らしていけるように、おまじないだよ」
額に落とされた優しいキスと共に、それまでの記憶がリズの中に閉じこめられて見えなくなる。けれどランシュやフェティが自分を大切にしてくれることは幼いリズにもわかったので、不安はなかったらしい。
いずれ人格形成プログラムのソースコードを巡って、科学技術局と対立することをバージュ博士は予測していたのだろう。
在処を知っていることが発覚すれば、リズが辛い目に遭うかもしれない。それを心配して知らないことにしたのだ。
フェティの日記にリズの発熱が書かれていなかったのも、リズを守るためだろう。ランシュがリズの制御チップに細工をしたことをフェティは知っていたから。
「でもなんで、そこまで徹底して隠すくらいなら、消去してしまわなかったんだろう」
オレの素朴な疑問に、リズは苦笑する。
「私も科学者の端くれだから、それはなんとなくわかるわ。悪用されるととんでもないことになるってわかっていても、自分が心血注いだ研究成果を簡単に捨ててしまうことなんてできないのよ」
「なるほどね」
まぁ、九十年たった今でも現役な研究成果だしな。