異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました


 通信を切って少し急ぎ足で出入り口に向かう。扉の前で振り返ってリズに声をかけた。

「じゃあ、行ってくる」
「えぇ。ラモットさんに迷惑かけないようにね」

 母親のような小言を言って席を立ったリズが、少し寂しそうにしながらこちらを見つめる。

 なんだろう。ちょっと出かけるだけなのに。

 疑問に思って立ち止まっていると、いつもはほとんど反応しない初期プログラムが起動して視界にメッセージを表示した。

——挨拶

 あ、そうか。ここは日本じゃないんだった。
 オレは慌てて引き返し、リズの頬に軽くキスをする。

「行ってきます、マスター」
「行ってらっしゃい」

 リズの寂しそうな感情が一気に消えた。
 クランベールでは欧米のように、親族や恋人同士など、特に親しい間柄では挨拶にキスをする。

 日本ではそんな挨拶新婚夫婦くらいのもんだと思ってるので、あの事件の翌日リズからおはようのキスをされたときは、なんでいきなり積極的になったのか混乱したくらいだ。

 恋人らしい挨拶をして、オレは改めて研究室を出る。

 そっか。別にイチャイチャしなくても、挨拶のキスをするだけでリズに対する親密度は伝えられるよな。
 日本人のオレはついつい忘れがちだけど、今度から気をつけることにしよう。

 メモリにリズへの挨拶フラグを立てて、オレは急いで班長の家に向かった。


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