異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました


 じゃあ、なんでダレムについてくるなって言ったんだろう。そしてここに来るまでなにを焦っていたんだろう。

 班長は相変わらず苛々した様子で、威圧的に友人男性に尋ねる。

「あいつはどうした?」
「よく眠ってたから起こすのかわいそうで」
「いいから連れてこい。あいつの元気な姿を見ないとオレの方が安心して眠れない」
「はいはい」

 なんだ? 会話からすると恋人じゃなくて子供とか? 班長独身だから隠し子?
 だとしたら、ロボットとはいえ部下のダレムには知られたくないのはわかるが。

 友人男性は再び気怠げに玄関に引き返す。少しして腕の中に何かを抱えて戻ってきた。

 こちらからは陰になってよく見えないが、赤ん坊?

 視覚を拡大モードにして凝視する。腕の陰からぴょこんと尖った耳の先が現れた。続いてグレーの短い毛に覆われた頭と空を映したような青い目が腕の陰からあたりを窺う。

 隠し子じゃなくて隠し猫!

 トロロンよりはだいぶ小さいが、地球上の猫よりは一回り大きい。
 どうやらクランベールの猫は中型犬くらいの大きさが標準のようだ。ということは、班長の隠し猫はまだ子猫なのだろう。

 キョロキョロしていた子猫は、班長に目を留めて「にゃあ」と鳴いた。

 途端に班長の感情が不安や焦りや苛々から、喜び、慈しみ、愛情へと変化する。いつもの不愉快そうな表情からは想像もつかない優しい笑みが子猫に注がれた。

 見てはいけないものを見たような気がする。なに、そのデレっぷり。

 そっか、班長は猫好きだったのか。ということは、爆弾事件のとき、車の中からトロロンと見つめ合ってるリズを忌々しそうに見ていたと思ってたけど、実は羨ましがっていたとか?

 でも、どうしてダレムに隠すのかはわからない。

 デレてるとこを見られたくないのかな。班長の性格的にそれはありそうだが、ダレムの前ではクールにしてればすむだけじゃないだろうか。


< 268 / 285 >

この作品をシェア

pagetop