異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました
「リズってさぁ、男と付き合ったことないだろ」
「なに言ってるの。今現在、男のあなたに付き合ってるじゃないの。だいたい機械好きの女の子は少ないから、男との付き合いの方が多いわよ」
思わず盛大なため息が漏れた。そのずれた返答がすべてを物語っている。
「いや、そういう意味じゃなくて、恋人がいたことないだろってこと」
ようやく意味を理解したリズは、ムッとした表情でオレを睨む。そしてクランベールにはありえない言葉を投げつけた。
「セクハラ!」
「は? 今、なんて……」
「セ、ク、ハ、ラ。性的嫌がらせのことよ」
「いや、意味は知ってる。それ、クランベールの言葉?」
「あぁ、あなたニッポン人だったわね。ニッポンの言葉よ」
「なんでリズが知ってんの?」
「バージュ博士から教わったの。彼のお母さんがニッポン人だったのよ」
はぁ!? オレ以外にも日本人がいたのか!?
どうりでオレが日本人だと言ったとき、リズがあっさり受け入れたはずだ。
「クランベールに日本人がいるのか!?」
「今はいないと思うわ」
「え、どういうことだ?」
「博士のお母さんが特別だったのよ。九十年前に偶然やってきて、こちらで結婚したから、その後は時空移動装置で頻繁に行き来してたらしいけど、彼女以外でクランベールに定住したニッポン人はいないはずよ」
何度か前例があったらしいが、クランベール側からしても異世界人がやって来ることは珍しいことだし、地球側からしたら、絵空事にしかすぎない。彼女が日本人であることは、ごく一部の人たちしか知らなかったという。
時空移動装置は彼女の夫である機械工学の博士が、彼女のためだけに作ったと言っても過言ではない。現在は異世界に移動するより、広大なクランベール大陸内の街と街を繋ぐ遠距離移動用の交通手段として利用されているらしい。
「じゃあ、その時空移動装置を使えばオレも日本に帰れるのか」
「帰るならその体は置いていってね」
「ちっ」
中身だけ帰っても意味ねーじゃん。
だいたいオレが死んでからどのくらい時間が経過してるかもわからないし。少なくとも、クランベールで目覚めて一週間以上経過してるってことは、オレの体はすでに荼毘(だび)に付されてるはずだ。
浮遊霊になるなら、帰ってもしょうがない。