異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました
「見取り図を確認しました。勝算は九割七分です」
「残り三分はなんだ?」
「私の経験不足と不測の事態によるものです。令嬢はバージュモデルなので、人間と同じように行動の予測が難しいんです」
「そうか」
班長はまた黙り込む。経験値の低いオレをひとりで突入させて、令嬢の身に万が一のことがあれば班長の責任問題になる。慎重になるのはわかるが、令嬢もロボットだから、人間の少女ほどは脆くないはずなんだけどな。
一度失敗をしているオレを信用できないのはわかる。だけど、だからこそ——。
「お願いです、班長。私をひとりで行かせてください」
班長は訝しげな目でオレを見た。不信感と差し迫った緊急性との間で揺れているのがわかる。
「オレにおまえを信じろと?」
「私を信じるかどうかは班長の自由です。けれどマスターの頭脳と技術を結集して作られた超高性能なこの体を私自身は信頼しています」
オレのことは信じなくていい。リズの優秀な技術は信じてくれ。
にっこりと天使の微笑みを向けると、班長は気まずそうに目を逸らして吐き捨てるように言った。
「いいだろう。おまえひとりで突入しろ。ただし、これは命令だ。少しでも令嬢に危害が及びそうな場合は、迷わずグレザックに援護を頼め。いいな?」
「了解しました」
黙ってそばに立っていたグレザックがオレの肩をポンと叩いて促す。
「行こう」
「はい」
現場へ移動するオレたちの背中に班長が声をかけた。
「グレザック、そいつのフォローを頼む」
「了解」
集合していた建物の裏手から表へ回りながらリズに要請する。
「リズ、リミッターの解除頼む」
「いいわ。リミッター解除命令。パスコード09955」
マスターの命令受理。
パスコード承認。
筋力リミッター、ロック解除。
痛覚センサ停止。
視界の片隅にフルパワー制限時間が表示された。