異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました
さきほどの恋人予行演習が尾を引いているのか、リズは少し動揺したまま黙ってカップの中を見つめている。
帰って何を調べる気なのか聞いてみたいけど、落ち着くまでまともな答は聞けないかもしれない。どうせ家に行けばわかることだし、オレは追及するのを後回しにして何気なく窓の外に視線を移した。
ぼんやりと見つめていた通りを行き交う人波の中に、見知った姿を見つけてオレは思わず声を上げた。
「あ、あいつ……」
「え、誰?」
リズが顔を上げて、窓の外にオレの視線を追う。視線の先には、先日伯爵家の令嬢を誘拐したロボットのベレールがいた。
「あいつ、野放しにして大丈夫なのか?」
「記憶は全部消えてたし、システム領域から全部リセットしたら問題ないわ。人間じゃないんだから」
「そうか」
人間だったら生まれつきの性格や、以前と同じ環境に置かれたりすると、再び同じ過ちを繰り返す可能性もある。だが、ロボットが中身をリセットされるということは別人に生まれ変わるようなものだから問題ないのか。元々ベレールは人格のないノーマルモデルだったし。
それにしてもあんな大それた事件を起こしたロボットが、よく解体処分にならなかったものだ。
事件を起こしたロボットはケチがついているので、売りに出してもなかなか買い手がつかない。時々警察局払い下げ品として、破格の安さで売りに出されるが、保管費用の兼ね合いもあって、ノーマルモデルは解体処分にされることが多いと聞く。
いったいどこの物好きが買ったんだろう。あるいは、また犯罪に利用されようとしてるんじゃないだろうか。
気になってまじまじと見つめていると、ベレールの横を行き交う人波が途切れた。ひとりでいるのかと思っていたが、小さな連れがいたようだ。
思わず笑みがこぼれる。
「そっか。よかったな、ベレール」
荷物を抱えたベレールの手を引いて、楽しそうに笑う伯爵令嬢の姿が通りを通過していく。
「彼、伯爵家に引き取られたのね」
見ると、リズも目を細めてふたりの後ろ姿を見つめていた。
すべてリセットされたベレールが、自分の知っている彼ではないことを令嬢もわかっているだろう。ひととき心を通わせた彼が、今度は幸せな生活を送って欲しい。
同じロボットだからこそ、バージュモデルの令嬢はそう思ったのではないだろうか。
あの時、オレの胸にわだかまっていたやりきれなさが、いつの間にか消え去っていた。