異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました
一時間ほどしてふたり分の夕食が完成した。料理を載せたトレーを持って隣の部屋へ行くと、ちょうどリズが部屋に入ってきたところだった。
ゆったりとした生成りの長袖シャツの下に七分丈の黒いパンツをはいて、靴も踵のないぺったんこのルームシューズに履き替えている。
ラフな服装をしてすっぴんのリズは、元々の童顔がより一層幼く見えた。
「ちょうどよかった。今できたとこ」
「ありがとう。いい匂いね」
「ちょっとそこで待ってて、すぐ用意するから」
テーブルに近づこうとするリズを制して、その場にとどまらせる。本来なら席に着いたリズの前に皿を並べるべきなんだろうが、そんなことをしたら間違いなく痛い目に遭って、せっかく作った料理の皿をひっくり返すに決まっている。
オレは運んできた皿をテーブルの上に並べてリズを促した。
「いいよ。座って」
「へぇ。上手にできたじゃない」
「まぁね」
席に着いたリズは目の前に並んだ料理を、目を輝かせて見つめる。
メニューはリズが唯一おいしかったと記憶しているオムライスと野菜サラダだ。サラダは店で買ったものを皿に移しただけだが、オムライスは事前に練習してオレが唯一作ることのできる料理なのだ。
オレが斜め前の席に着くのを待って、リズはスプーンを手に取った。
「じゃあ、いただきまーす」
オムライスの端をスプーンにすくって、パクリと口にくわえるリズを固唾をのんで見つめる。もぐもぐと咀嚼するごとにリズの頬がニコニコと緩んでくる。
微かな高揚感にノスタルジィ。センサが捉えたリズの感情はおおむね良好。
けれどやっぱり直接聞きたい。
「どう?」
待ちきれずに尋ねると、リズは口の中のものをゴクンと飲み込んで満面の笑みで答えた。
「おいしい。ランシュが作ってくれたのより、ちょっと甘いけど、私はこっちの方が好き」
「よかった」
リズは時々、子供の頃のくせでバージュ博士を名前で呼ぶ。彼女の大叔母さんがそう呼んでいたかららしい。オムライスを食べた子供の頃を思い出したのかな。
リズに気に入ってもらえたので、オレも安心して自分の食事に手をつけた。