28才の初恋
「じゃあ、外回りに行って来ます!」

 オフィス内での仕事が終わったのだろう。
 大樹クンが営業用のカバンを抱え、張りのある声を出しながら外回りに出発して行く。

 ああ……行ってしまうのね。
 誰だよ!大樹クンに外回りの仕事なんて行かせてしまうのは……って、私か。
 私が大樹クンに用意した、担当者の性格が良い取引先か。

 仕方ない、お互いに会社に雇われの身だ。
 こればかりは何と言おうとも……仕事だし。

 心の中でハンカチを噛みながら大樹クンを見送る。
 嗚呼……これで少なくとも三時間は離れ離れになるのね……今度、絶対に二人で行ける訪問先を作ってやるんだからっ!

 うーん、これは公私混同だろうか?
 でも……『デキる部下に同行する上司』って、そういう設定ならアリじゃない?

――これくらいの役得は……許して欲しいところだ。

 ささやかなご褒美ってことで。
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