28才の初恋
 正直なところ、私が出ていくのは簡単なことだ。
 直属の上司だし、責任者なのだから。

 しかし、それをやってしまうと大樹クンの立場がまるで無くなってしまう。
 部下が失敗したからと言って、上司がすぐに現場へ出て行ってしまうのは、例えて言えば『子供のケンカに親が出る』ようなものだ。

 なので、ベストな形は大樹クンが謝罪に出向き桃代部長から今回の失態を許してもらう。
 それから今後のことを話し合える段階になってからが――やっと私の出番だ。

 特に今回は、大樹クンの頭越しに、直接私の元にクレームが来てしまったような事態である。
 簡単に言い換えれば、大樹クンは『恒久』からの信頼を失ってしまっている、ということだ。
 まずは大樹クンが桃代部長からの信頼を取り戻さなければ、今後の仕事にまで影響してしまう。
 ヘタすれば担当を交代、それは大樹クンにとっても決してプラスになることではない。

 私が上司として大樹クンにしてあげられることは、この失敗を糧にして今後の教訓を実体験として学んでもらうことなのだが……大樹クンを愛する女としては、そんな苦労をさせたくないというか……複雑な気分だ。
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