28才の初恋
「本当にすいません……」

　運転席で前を見ながら、大樹クンが謝ってくる。
　ミスを犯してしまった当日よりは元気を取り戻したとはいえ、まだ精神的には完全に立ち直れてはいないようだった。

　大樹クンをここまで落ち込ませてしまった、それだけでも桃代部長の機嫌を取るなんて真っ平ゴメンなのだけれど……これも仕事だ、仕方があるまい。

「いいのよ、誰だってミスくらいするんだから」

　出来るだけ優しい口調で、かつデレっとなりすぎないように気を引き締めて大樹クンに返事をする。
　少しでも気を抜くと、『このままデートしようっ！』と言い出してしまいかねない精神状態だ。

　ほら、『掃除をしないといけない時に限ってテレビを見たくなる』みたいな精神状態ってあるじゃない？それに似たようなものだ。
< 161 / 518 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop