28才の初恋
 スーツの内ポケットに忍ばせたリップクリームを、鏡を見ながら慎重に塗りなおす!
 私の王子様……じゃなくて。
 池田くんにみっともない顔を見せたくない。
 自分の中にそんな乙女な心があったのか、と驚くばかりではあるが……ここはそんな気持ちに正直に行動だ!!

 一分ほどで身だしなみを整え、オフィスに向かう。
 トイレに入っていた時間は五分ほどである。
 その五分の間に、部長は自分の部屋に戻っており、課員たちもみんな自分のデスクに着き仕事を開始していた。

 浮ついた気持ちでトイレに籠ってしまった自分を少し恥じ、申し訳ない気持ちになる。
 私もデスクに着いて仕事を再開――するつもりが、斜め前のデスクに座る池田くんと目が合った。
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