28才の初恋
 師匠の叫び声は、テクニック披露の一環ではなくて、どうやらマジな叫び声だったようで。

「課長ぉ、アレ! あそこ見てください!」

 露天風呂の片隅を指差して、何か怯えている様子だ。
 ネズミやゴキブリでも居たのかな……?
 そう思いながら師匠の指差す先を追う。

 そこには源泉の掛け流しがあって、竹で出来た流し口から、下にある岩で造られた小さい目の浴槽があり……その中に師匠を叫ばせた『モノ』が居た。

 そこに居たのは、ネズミでもゴキブリでもなかった。
 ましてや幽霊でもなく、妖怪でも……ああ、正体はソレに近いものなのかもしれない。

 岩で出来た湯船で、掛け湯の下で寛いでいたのは……紫のゲル状の物体。
 気持ちよさそうにお湯の中でプルプルと震えている――ウチのペットだよっ!

……いつの間に付いて来てしまったのだ?
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