28才の初恋
 みんなに質問が聞こえないように、大樹クンに耳打ちをした。
 その距離は、ほんの少し顔を捻ればキスが出来るほどの近さだ。
 自分が取った大胆な行動に……心臓は破裂寸前なのではないかと思うほど激しい鼓動を刻んでいる。

「そ、その……れすね」

 大樹クンの返事が始まり、それをキチンと聞くために顔を大樹クンの傍から離す。
 大樹クンは酔いも手伝ってか、耳まで真っ赤になってしまっている。

――大樹クンは私のことをどう思っているのか?

 酔っている時にこんなことを聞くのは……反則だと分かっている。

 しかも、私の気持ちをちゃんと大樹クンに告げていないのに――大樹クンにだけ気持ちを言わせるなんて。
 私はとんだ卑怯者だ、と頭のどこかで冷静な私が現在の私をなじっている。

 でも、大樹クンはもう口を開いてしまった。
 私は……答えを待つしか出来ない卑怯者になってしまったのだ。
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