28才の初恋
 迷いが――私の動きを止めた。

 正々堂々と恋愛するために、大樹クンの口から答えが出るのを止めよう、止めてしまおう……そう思った。

 しかし、打算的な私の気持ちが……その行動を制止した。
 私は動けないままで口をつぐみ、大樹クンは答えの続きを話し出す――。

「俺は……課長の……その、杏子さんのことを……」

 そこまで言って、大樹クンは俯かせていた顔を上げた。
 視線は真っ直ぐに私を見ている。

 澄んだ瞳、結ばれた唇、伸ばした背筋――。
 その全てが……大樹クンの決意を表していた。

 それに引き換え――私は。
 卑怯なことをしてしまっている、という後悔が私の中を駆け巡るが――もう遅い。

「す……」

 大樹クンの瞳を見つめ返したまま、覚悟を決めて大樹クンの答えを聞く。
 それが私の最低限の礼儀だと思った――。
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