28才の初恋
　背後でガラっという音が聞こえる。
　脱衣所に居た人が入ってきたのだろう。

　入って来た人に気を遣わせてもいけないので、振り返って顔を見るようなことはしない。
　温泉に入る時のマナーのようなものである。

　まあ、ここで入って来た人が水着なんかを着てたら山賊のごとく、着ているものを身ぐるみ剥いでやろう、というくらいの気概が持っているが。

　入って来た人は、私の斜め後ろくらいの場所にしゃがんでかけ湯をしようとしている。
　ちゃんとエチケットを守る人のようで、少しホッとする。

……それにしても、だ。

　かけ湯をするために、湯桶にお湯を汲もうとする時、入って来た人の手がチラッと見えたのだが……ヤケに太い腕である。

　湯煙で顔は良く見えなかったのだが、かなり体格の良い人のようである。
　スポーツ選手か何かだろうか？
　私の身体的コンプレックスを刺激するような人でなければ良いのだけれど。
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表紙・目次

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