28才の初恋
 仕方が無いので、壁に掛けてあるメニューの中から『神怒川名物! 巨大猪の丸焼き』という料理を注文する。
 これも『お一人様で二十分以内に完食で無料!!』という但し書きが付いている。

 私の注文を聞いた瞬間に……おばちゃんの顔が真っ青になった。ポツリと「外し忘れた……」という言葉を聞き逃さなかったのだが……これもそんなにボリュームが無い料理なのだろうか?だとすれば、やや傷心気味である私には丁度良いくらいの量なのだろう。
 大樹クンのことが気になって、胃の調子が悪い。

 とてもではないが、普段通りの量を食べる自信もないし。猪の丸焼きと言っても、観光地にありがちな大げさな表現だろう。
 軽食として、とりあえずお腹に何か入れておこう――そんな気持ちだ。

「い……猪の丸焼きぃっ! 注文入りましたぁっっ!!」

 おばちゃんの悲痛にも聞こえる叫び声が、食堂の中に響き渡った。
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