28才の初恋
「やあ、待たせたね」

 部長の話が「ルービックキューブをいかに六面全てを揃えるか」という話題に移り変わり、私がその話をどうやってスルーしようか考えていた頃になり、ようやく待っていた人物が現れた。
 部長が電話をかけて、わざわざ呼び出したその相手は――ウチの専務だった。

 ウチの会社の中でも、社長に次いで目撃頻度の低い人である。
 私でも、年始の挨拶と二年に一度ある社内運動会の時にしか見かけたことがない。
 入社の時から数えても、ひょっとすると十回も見ていないのではないか、それくらいに顔を合わす機会の無い人だ。

――その専務が、一体私に何の用があるのだろうか?

 仕事の話には違いないだろうが、それにしてもわざわざ会社の外で、しかも普段まるで面識の無い専務が出てくるとは。

 どのような話なのか皆目見当が付かない。
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