28才の初恋
「頼み……ですか?」

 とりあえずは、神妙な表情は崩さないままで聞き返してみる。
 万が一ではあるが、ヘタに異動の内示だったりすれば非常に困ることになる。安請け合いは出来ない。
 専務は「うむ……」と言いながら自分の横に座る部長にチラリと目をやる。
 部長は専務からの目線を受けて、コクンと小さく頷いた。

――アイコンタクトか!

 相手が専務で、ツッコミを入れられないのが苦しいところである。
 私が現役のBL作家であれば、これをネタにして部長と専務のBL小説でも執筆したいところではあるが……って、そんなものを書いても読者は小島か受付の坂田さんくらいなものだろうけれども。

 そんな事を考えている私をヨソに。
 部長は自分のカバンをゴソゴソと漁り、中から一束の書類を取り出し、私に差し出してきた。
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