28才の初恋
「あの――これって……」

 私が目を止めて、専務に質問したのはその二ページ目に記されていた……私の名前が書かれていたことに対して、だった。
 そこにはこのように記されていた。

『海外事業部:部長 瀬戸 杏子(予定)』

 これを見て、ようやく私は専務が私を呼び出した理由を把握した。
 つまり、専務は新しい会社を設立するのだ。
 そして、その新しい会社に私を引き入れようとしている、という事なのだ。

「どうだろう? 私と一緒にやってみないかね? 報酬は今の倍を用意しようと思っている」

 前置きの長さとは打って変わって、専務は単刀直入に本命の用件を告げてきた。
 
――つまり、ヘッドハンティングである。

 新しい会社に、実績のある優秀な人材を、ということなのだろう。
 しかも、私のような若い人間にとって部長とは……破格のポストである。
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